こんにちは。新規開発グループのtakejuneです。
9月12日から14日の間に、サンフランシスコでTechCrunch Disrupt SF2011というカンファレンスが開催されました。
ライブドアでは、私とエンジニアのoklahomerの二名でこれに参加してきました。
イベントの模様は、既にTechWaveやTechCrunchでも取り上げられていますが、新規サービスの企画・開発担当ディレクターという視点から、このイベントを通じて得られた情報や考察をOpen&Shareさせて頂きます。

TechCrunch Disruptとは?


TechCrunch Disruptは、アメリカ最大のテックニュースメディアTechCrunchが開催するカンファレンスです。
スタートアップ企業が全力をかけて開発した新しいプロダクトやサービスのプレゼンテーションを行う"Startup Battlefield"が最大の見所で、その他にも、著名な投資家や起業家によるセッションや、スタートアップがプロダクトを宣伝する"Startup Alley"というブースが設けられています。
このイベントはスタートアップ企業の登竜門といわれており、今回もこのイベントにタイミングを合わせて新サービスや新機能をローンチする企業が多数見られました。

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何のために参加したのか?


今回の渡米で知りたかったことは、大きく分けると以下の三つでした。

Webサービスの今後のトレンドをいち早く知る


App storeやFacebookなどグローバル且つフラットなプラットフォームの普及により、『Instagram』のようにスタートアップによる世界的にヒットするプロダクトが生まれています。
またGoogle,Facebookなどの大企業によるスタートアップの買収が活発に行われており、後に『Facebook Messanger』となった『Beluga』のように、生まれ変わり世界に羽ばたくプロダクトも存在します。
そのため「どのようなスタートアップが登場し、それに対して投資家がどのような評価を下すのか」ということは時代の流れを読むためには有効な手段の一つであると感じています。
ひとことで言うと「次のInstagramやBelugaは何か?」ということを知りたかったのです。

サービス企画においての違いを知る


次世代の中心としてアジアが注目度を高める一方で、現在のITの中心地は間違いなくシリコンバレーです。上記のようなプロダクトも、そのほとんどがシリコンバレーから生まれています。
「それは何故か?」日本でプロダクトを企画開発している中で純粋に疑問に思う部分があり、それを解消したいという思いがありました。
その中でもまずは、サービス企画についての考え方や手法に大きな違いがあれば知りたいと思っていました。

スタートアップ企業を取り巻く環境の違いを知る


また、他の地域との差異として語られることの多いシリコンバレーの「エコシステム」についても理解を深められればと思っていました。

前置きが長くなりましたが、そんなことを考えながら実際に行ってみてどうだったのか?ざっくりとまとめていきたいとおもいます。

Webサービスの今後のトレンド


プレゼンテーションや展示で目にしたプロダクトや、パネリストによるセッションの内容から、今後の盛り上がりが予想されている領域を知ることができました。

ローカル


予想通り、ローカルなサービスは熱い注目を集めていました。
ローカルなサービスと言うと、ロケタッチのような「チェックイン系」のサービスをイメージしがちですが、今回は『AirBnB』のように、地域内での個人間の直接取引を実現するようなものを多く目にしました。(注目も集めていたように思います)
悪い言い方をすれば、『種類違いのAirBnB』が雨後のタケノコのように乱立している、とも感じられました。

医療系、学習系


予想していなかったのは、医療・教育分野に関する熱視線でした。
これらの業界は保守的で、ある意味テクノロジーによる革新をブロックしてきたような印象がありますが、逆にいうと大きなイノベーションが起きる余地がある、と見られているようでした。

インタレストグラフ


本、音楽、映画、ニュース、テレビ番組など、人々が何に対して興味関心を持っているかというインタレストグラフの可能性を改めて強く感じました。
それは、インタレストグラフがソーシャルグラフ・ロケーショングラフと並んで、ソーシャルウェブ上の個人間を結びつけたり、広告ターゲティングを行う際の精度を高めるのに利用され始めていたからです。
前者の具体例としては『LocalHero』や『WonderShake』等のアプリが、Facebookでlikeをしているページを取得し、これをユーザーの属性を表すタグとして再利用することでこれを実現しています。
これはマッチングの精度が悪く、やや無理矢理感を感じる手法であるため、「再利用しやすいインタレストグラフの形式をFacebookが規定してくれたらいいのに・・」などと話していました。すると、このカンファレンスの1週間後に開催されたf8にて、まさにそれを実現する「オープングラフ」が発表されました。流石Facebookと感心するとともにこの分野の加熱が確信に変わりました。

その他にも「ビッグデータ」「データの削減」「エモーショナルなアプリ」「ユーティリティ」などがホットな領域として言及されていましたが長くなるので割愛します。

サービスの企画についての違い


Disruptで目にした100以上のサービスの中には、良いと感じるものもそうでないものもあり、日本のサービス提供者が企画力で極端に「差」があるという印象はありませんでした。

文化的・社会的背景の考慮


ただ、当然シリコンバレーで勝負するサービスはアメリカの文化的・社会的背景の「違い」を考慮する必要があるため、日本で考えたサービスがそのままシリコンバレーでヒットする可能性は薄いように感じました。(これはどの国でもそう)
カンファレンスの翌日に参加した勉強会でも、「こちら(シリコンバレー)で勝負するなら、少なくとも"デザイン(UI,UX)"と"マーケティング"はこちらでやる必要がある」という話が出ていました。

”Lean Startup”と"Pivot"


また、企画・開発に関しては三日間通して多く耳にした”Lean Startup”と"Pivot"という言葉が印象的でした。これらは最近日本でも(局地的に)よく耳にするようになりましたが、シリコンバレーのスタートアップの間では非常にポピュラーな考え方のようです。

・Lean Startup

Lean Startupとは、簡単に言うと「効率的な起業方法」で、アジャイル(高速な開発)と仮説検証プロセス(顧客との対話)によって、「実在するユーザー」が「本当に欲しがるプロダクト」を最小限の資金と時間で生み出す手法です。

・Pivot

Lean Startupの肝は、その仮説検証のプロセスによってユーザーが求める価値軸を見つけ出し、それに基づいて方向転換することで、これを"Pivot"といいます。

Lean Startupに含まれる「顧客発見」と「顧客実証」及び継続的な「仮説の記述と検証」のサイクルがまだまだ根付いていない企業(スタートアップ以外も含む)が日本には多いのではないかと思いました。

スタートアップ企業を取り巻く環境の違い


最後に、あんまり興味がない人もいるかと思うのですが、「日本との違い」を感じた部分なのでスタートアップ企業と投資家について書いておきます。

スタートアップ企業の祭典ともいうべきイベントなので当然といえば当然なのですが、今回のイベントでは、全体の半分くらいのセッションに投資家が登壇していました。これらのセッションでは、スタートアップ企業と投資家の密接な関係性を改めて感じさせられました。
彼らは資金を投資するだけでなく、ネットワーキングの支援やワークスペースの提供などあらゆる面での支援を行い、自らを「ベンチャーファンド」ではなく「ベンチャーアシスタント」と称するべきでないか、と話していました。
よく言われているように、たしかにスタートアップを取り巻く"エコシステム"ができているのだなと思ったのですが、ふと考えてみると、"スタートアップ企業","投資家",の他にも"地域","学校","メディア","大企業"といったプレイヤーが存在していることに気づきました。
すなわち・・・

  • "学校"は学生の起業を奨励し、彼らが成功した場合に名門校としての名声を得る。

  • "投資家"は彼らに投資を行い、彼らが成功した場合に大金を得る。

  • "地域”は彼らを優遇し、彼らが成功した場合に大きな税収を得る。

  • "メディア"は彼らを宣伝し、彼らが成功した場合により大きな影響力を得る。

  • "大企業"は彼らを買収し、彼らのプロダクトやそのユーザー、または彼ら自身の能力を得る。

といった具合に、"スタートアップが成功することのインセンティブを互いに享受すること"が、エコシステムを機能させ保全させる効果を生んでいるのではないかと。そこに、日本との差をなんとなく、しかし無性に感じました。(もちろん現実には関係性はもっと複雑なんでしょうけど)

次回のエントリでは、3日間の全セッションから面白かった部分を抜粋してOpen&Shareしたいと思いますので、お楽しみに!

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