こんにちは、ライブドアブログBLOGOSメルマガを担当しておりますディレクターの@kohtanです。

ウェブサービスを開発・運営している際に、著作権の問題について悩んでしまう場面があるかと思います。意外と基本的な用語や概念についても把握していないディレクターの方も多いのではないでしょうか?今回は、社内で行われた著作権に関する勉強会の内容の中から、著作物としての成立要件についてレポートしたいと思います。
※記事内容については、勉強会を主催した法務部にも確認をとっておりますが、実際のサービスにおける運用判断などについては、各法務担当者に確認することを推奨します。

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photo credit: SalFalko via photopin cc


対象が著作物であるか否か



まず、何が著作物に該当するか否かということを知っておくことが、著作権侵害について考える上でのスタートとなります。著作権法では、著作物の定義は以下のようになっています。
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著作物の要件として「創作性」が求められていますが、芸術的な価値や独創性があるかということまで求められているわけではなく、何らかの形で著作者の個性が対象に現れていることで足りるとされています。逆に、創作性がない=ありふれた表現であれば著作物ではないため著作権法では保護されません。

もうひとつ重要な要件として、「表現」されている必要があります。つまり、アイデアや手法などの抽象的な概念は具体的な「表現」を伴っていないため、著作物としての要件を満たさないことになります。

さらに、著作物であるためには「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があります。例えば、車や家電などの工業製品や実用品については高度な美術性がある場合を除いて、著作物性がないと判断できるようです。ただし、昭和60年の法改正で「プログラムの著作物」が著作物の例示に追加されたため、ソフトウェア等は基本的に著作権の保護対象となりました。

知っておきたい判例



ここでは、ウェブサービスの運営や開発を行うディレクターの立場から知っておきたい重要な判例をいくつか紹介します。

読売オンライン記事見出し事件



▼新聞見出し無断ネット利用に賠償命令 著作物性は再び否定 - ITmedia ニュース
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0510/06/news081.html

読売新聞がネット向けに配信していたニュースの見出しを無断で配信していたネットニュース配信会社に配信差止めと損害賠償を求めた訴訟です。読売新聞が主張していたニュースの見出しの著作権については、創作性が無いとして認められませんでした。

ただし、「見出しは、多大な労力や費用をかけた報道機関の活動が結実したもの」として法的保護が認められ、見出しを営利目的に無断で反復継続して配信した今回の事案では不法行為が成立するとし損害賠償が命じられました。創作したものに著作物性がなくても法的保護が認められる場合があることに注目したいです。

HP掲示板投稿文章書籍出版事件



▼記者の眼 - ネット掲示板書き込みにも著作権 - 東京地裁が初判断:ITpro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20020416/1/

ホテルのクチコミ情報の投稿掲示板に書かれた内容をサイト運営者らが文庫本として出版したのに対し、掲示板への投稿者が書籍の著者と出版社に損害賠償と出版差止めを訴えた事件です。

結果としては、原告の主張である「著作権の侵害」がほぼ全面的に認められました。書籍の著者と出版社は「投稿が匿名で行われた」点や「掲示板の内容が質問と答えのみからなる」点などから、掲示板への書き込みは「思想や感情を創作的に表現したもの」とは言えず著作物にあたらないという主張を行いましたが退けられました。

この判例からも、CGM系のサービスを運営している場合などで、ユーザーの投稿などを書籍化したり、再編集したりする可能性がある場合は、投稿内容が著作物である可能性を念頭におきつつ、利用規約等でその取扱について明記する等ユーザー目線をもった慎重な対応が必要であることがわかります。

ゴナ書体事件



▼平成10(受)332著作権「ゴナ書体事件」最高裁平成12年09月07 - 特許実務日記
http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080102

株式会社写研と株式会社モリサワの両社が開発したフォントについてお互いに著作権侵害を主張した事件ですが、フォント一般について著作物ではないという判断がくだされました。「従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備える」かつ、「それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならない」というフォントが著作物として認定されるための要件を示しました。

ただし、フォントプログラム無断インストール事件で、海賊版のフォントプログラムをインストールしたコンピュータの販売を行った会社に対して損害賠償が命じられたように、フォントプログラムはプログラムの著作物として判断されていますので、フォントは著作物ではないから自由に使えるというものではないことに注意しましょう。

次回は、著作者と著作権者の違いなどについて、関連する判例をまじえながら紹介したいと思います。