古くて新しい「CGM」

 『livedoor グルメ』、『映画を語ろう』などを担当している根岸です。『本が好き!』という実験企画にも携わっています。これらは、最近注目されているCGM(Consumer Generated Media=消費者が生成するメディア)と呼ばれるサービスです。

 例えばlivedoor グルメは、レストランや飲食店の情報をみんなで共有することが目的です。どこにどんなお店があるのか? TVで評判のお店の実力はどうなのか?
 消費者自身の体験と評価を集積することで、TVや雑誌による一方通行の情報とは異なる、(商業主義が介在しにくいという意味で)信頼性の高い情報が、コンテンツとなります。

 昨年のWeb 2.0ブームでブログやWikiがCGMの代表として注目されましたが、そのずっと前から、クチコミやQ&AをテーマとしたCGMが利用されてきました。

 1998年から2000年にかけて、『東京レストランガイド』、『アットコスメ(化粧品)』、『OKWeb(現OKWave。Q&Aサービス)』などの代表的なCGMサイトが登場しました。10代のユーザーがケータイで書いた小説を出版して、現在記録的なヒットを飛ばし続けている『魔法のiランド』も、1999年のスタートです。
 いずれも、名も知れない小さな企業や個人が志をもって立ち上げたものが、ユーザーの支持を集めて大きくなったものです。

細かいこだわりが、
ユーザーに支持される

 かくいう僕も、IT系出版社のアスキーで、『東京グルメ』というサイトを、半ばゲリラ的にスタートさせました。これが、その後livedoor グルメとなりました。

 きっかけは、2000年の1月、Googleでマイナーな映画の情報を探していて、『CinemaScape-映画批評空間-』という映画コミュニティに出会ったことです。まず最初に思ったのは「なるほど、ユーザーにデータベースを作らせ、Googleでヒットさせれば、お金を使わずに集客できる!」ということでした。「SEO」という言葉が登場する2、3年前の話です。現在では、SEOはCGMと密接な関係にあります。

 その後、CinemaScapeの作者の舘村先生(当時は東京大学)に指導して貰って、東京グルメの設計を開始しました。グルメサイトとしてカテゴリ検索やエリア検索にこだわりましたが、コミュニティとして盛り上げる仕組みも工夫しました。

 『PC Watch』のようなニュースサイトを参考に、ユーザーの書き込みを新着順にトップページに表示するようにしました。ユーザーごとに書き込んだコメントがまとめて表示されるページを設け、アクセスカウンタを付けて、自分のホームページとして愛着を持って貰えるようにもしました。
 どれも今では当たり前の機能となりましたが、当時は細かいこだわりがグルメ好きのネットユーザーに熱く支持されました。

成功者の共通点

 東京グルメを始めた直後、ネットバブル崩壊がおこりました。僕は雑誌編集部に戻るよう命令され、東京グルメは放置されました。しかし、熱心なユーザーたちが良質な情報を蓄積し続けてくれたこと、今でいうSEOを意識した構造にしたことが幸いし、東京グルメは半ば勝手に拡大し、人気を集めていったのです。その後、個人で東京グルメを引き取って2年ほど運営したあと、ライブドアに合流しました。

 いま僕は、ライブドアでCGMの運営や企画をしながら、古巣の『月刊アスキー』で、CGMの先駆者を取り上げて、起業の発想や運営のポリシーについて取材する連載を持っています。
 毎月の取材結果と自分の経験を重ね合わせて考えた結果、CGMビジネスの成功に必要な2つのことが見えてきました。

 ひとつは起業の原則で、ユーザーが抱える問題の解決手段を提供するということ。

(例)
  • 東京グルメはマスメディアより信頼できるグルメ情報を提供しようとしました。
  • アットコスメはメーカー縦割りの化粧品業界に、横並びで製品を比較検討する場を作り出しました。
  • OKWaveは、自分で情報を検索できないようなITリテラシイの低い人にも、ネットで情報を探せる場所を提供しました。
  • 魔法のiランドは、ケータイひとつあれば、日本中に対して自己表現できる場を提供しました。

 もうひとつは、ユーザーとコミュニティを信頼し、とことん付き合うこと。

 livedoor グルメでは、ユーザーが不適切な書き込みをしたときに、いきなり削除するようなことはせず、理由を付けて文章を返却しています。ユーザーから反論があった場合は、納得してもらえるまで説明するように心がけています。
 「こんな効率の悪いことをしているのは、ウチだけかなぁ?」と思っていましたが、いままでの取材先では、どこも同じようなことをしていました。

 付け加えると、日頃の運営も大切です。
 livedoor グルメは、運営媒体がアスキー→個人→ライブドアと何度も変わったことから、細部の詰めが甘くなっていました。ここ最近は、社内の関係者が意見を出し合い、改良を続けています。おかげで利用者数も増加基調にあります。

 これからも毎週ちょっとずつ、使いやすいサービスにしていきたいと思っています。