「紙の編集者はいらない!」
と、のたまわったのは、ライブドアの中の人ではなく、某ウェブ 2.0系出版社の社長さん。僕にとっては、紙の編集者としても、インターネットビジネスにおいても大先輩にあたる人なんですが。
「発想がどうしても、紙から抜け出さないからさ。だからウェブディレクターは経験者、専門家を雇う」
言いたいことはわかるけど、ちょっと痛かった。
僕は、もともと、メインフレームのOSまわりのエンジニアだったんだけど、その後、雑誌編集者を15年やった。
なので、CGMとか動的なウェブサイトではシステム屋っぽい発想をする一方で、静的なページを企画するときは、雑誌の発想が抜けない。最初のうちは、けっこうとまどった。
タレントさんのインタビュー企画で、全身写真を縦長にバン!と突き通すようなページを外注で作ったら、
「これ、紙のレイアウトですよね。ウェブじゃありえないですよ」
えー! すでにこのレイアウトで、数回分タレント事務所のOKとって取材進めているのに。。
このとき知ったのは、ウェブのレイアウトは、どちらかというと横長の要素を積み上げるように考えていく、ということ。
パソコンの限定された画面の制約のなかで、見やすく効率よく要素を並べるには、雑誌のレイアウトとは、違う発想をしなければならない。
企画 ⇒ 発注 ⇒ 制作 ⇒ 出版(公開) |
紙の出版でも、書籍と雑誌では、仕事の流れや方法論は異なる。
ウェブサイトでも、1つの分野に特化したサイトとポータルサイトでは、ちょっと異なるようだ。ライブドアのような大手のポータルサイトは、大規模なスタッフを抱える週刊誌編集部に似ていなくもない。
●メディア
雑誌編集者の視点で、むりやり比較してみると、こうなる。
雑誌 | ⇔ | ポータルサイト |
表紙、目次 | ⇔ | トップページ |
特集、連載 | ⇔ | 各サービス |
広告 | ⇔ | 広告 |
・さまざまなニーズを満たすサービス(記事)の集合体としてポータルサイト(雑誌)が存在する。
・多くのユーザー(読者)に支持されて、PV(部数)が増えると、広告で大きな売上げがあがる。
メディアとしても、ビジネスモデルでも、ポータルサイトは雑誌によく似ていると思いませんか?
●制作過程
記事企画書 | ⇔ | サービス企画書 |
台割、サムネイル | ⇔ | サイトマップ |
カンプ、ラフレイアウト | ⇔ | 画面構成書、仕様書 |
デザイン | ⇔ | デザイン |
原稿(ネーム、図版) | ⇔ | テキスト、図版、プログラム |
DTPデータ、校正紙 | ⇔ | HTML、HTMLテンプレート |
校了 | ⇔ | 公開 |
企画書作って、全体の見通しをサムネイル化して、各画面(ページ)の構成を視覚化しするのは、ほぼ同じ。
ただ、紙の画面構成書の中に、画面上の動きも指定しなければならないのが、紙の編集者にとっては、面倒というか慣れるのに時間がかかる。
●スタッフ
編集長 | ⇔ | ? |
副編集長 | ⇔ | シニアマネージャ |
デスク | ⇔ | マネージャ |
編集者 | ⇔ | ディレクター |
デザイナー | ⇔ | デザイナー |
DTPオペレーター | ⇔ | HTMLマークアップエンジニア |
印刷会社 | ⇔ | データセンター |
? | ⇔ | プログラマ |
編集者/ディレクターをとりまく、仕事の関係者の構成もよく似ている気がする。
ただし、大きな違いが2つある。ひとつは、プログラマの存在。ブログやWikiのように、ユーザーの操作に応じて動作するページを作りたかったら、仕様を決めてプログラマに発注しないとならない。
ここは結構ハードルが高く感じるところだが、まあ、やって覚えるしかない。
もう1点、比較表を作ってみて始めて気がついたのだが、ポータルサイトには編集長がいない。
我が儘かつ傍若無人に雑誌と編集部を支配し全権をふるう「編集長」がポータルサイトにはいないのである。
この編集長がいない、という部分が、実は一番大きな違いかも。
校了直前に「この写真を笑顔にする」とか「このレベルのインタビューをあと10本とってこい!」(いずれも実話)なんて無理難題をいう編集長がいないということは、一面ラクではあるが、クオリティの最終責任が、現場のディレクターの判断におかれているということで、より責任が重いとも言えるかも。まあ、そこがウェブディレクターの面白いところかもしれない。
●確かめてみる?
これらの違いは、発売したら2度と修正がきかない雑誌と、状況に応じて微修正ができるウェブという、メディアとしての形態の違いが作り出しているのだろうか?
それとも、バラ科の「山吹」と芥子科の「山吹草」が異なる科から進化して、よく似た花を咲かせるように、出版社とシステム会社が、よく似た性質のメディアを作りだしたための結果なのだろうか?
もし、あなたが出版業界の人なら、1度自分の体で体験&確認してみますか?
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