こんにちは、小久保です。
私の経歴は、受託開発のディレクター → 自社媒体のディレクター → 事業責任者 という流れを経ておりまして、以前「受託開発事業から自社媒体事業へシフトするための意識改革のポイントとは?」という記事を書きましたが、実はキャリアパスの中で一番焦ったのが営業面での知識不足でした。
受託開発を担当している時は、開発工数と人月単価さえおさえておけば渉外対応はある程度事足りていたのですが、自社メディアの場合だと提携内容の検討と営業的な話は一体となって進むことが多く、必然的に営業的知識が必要になってきました。
今回は、営業職の経験が無いディレクターの方でも、ビジネス上で最低限これだけは知っておいたほうが良いと思う、営業面での知識について紹介します。
まずは、一般的な取引成立までの流れをまとめてみましょう。以前、弊社の「ビジネススキル勉強会」というブログに「取引行為についての勉強会」を社内でやりましたと書きましたが、今回はもう少し、ディレクターの立場から見ての流れに沿って説明してみます。
それでは順に説明していきます。
何はともあれ、まず大枠の取り組みに関しての打合せです。この段階では、いきなり細かい情報の話をするのは避けましょう。技術情報や数値情報など、会社として外部に公開していない情報のやり取りをするのは、NDA(秘密保持契約)を結んでからにしましょう。
ということで、具体的な情報開示をするために取り急ぎNDAの締結を行います。「NDAの雛形はどうしましょうか?」と聞かれることが多いですが、通常は大きな会社の方にあわせた方がいいと思います。これは大企業ほど契約稟議の調整に時間がかかるため、あらかじめ用意された雛形のほうが早いからです。
NDAが締結できたら (または並行して)、必要な情報を相互に開示します。
提携の具体的内容・ビジネススキームを交渉し、大枠合意が取れたら契約書の作成に取りかかります。後にも述べますが、このあたりで相手方の会社の与信をかけ取引きを問題なくできるかどうかの確認を行います。
通常は提案した側が契約書の雛形を作成します。既に提携実績のあるサービスの場合、雛形は作られていることがほとんどですので、それをたたき台として詰めていきます。
法的な確認の前に、担当ディレクターとしてざっと見ておかしい部分は先に先方と調整を済ませておく方がよいでしょう。その後、法務部や担当弁護士に契約書雛形の確認を回しますが、基本的にはすべて履歴付きのWordファイルでやり取りすることが多いと思います。
弁護士等から大抵いくつかの修正点が入ります。弁護士の基本スタンスは会社の不利益にならないように防御するということが主ですので、ガチガチに防御する文言が赤入れされて戻ってくることでしょう。そこから、相手方との駆け引きになりますが、最終的には会社間の力関係で落としどころを見つけることになります。
無事争点がクリアできたら、最終版のファイルにて契約書の製本・押印にうつります。こちらも雛形を作った方が2 部製本して、押印→一部ずつ保管という流れが通例です。ここで、一点大変重要なことなのですが、最終版のWordファイルと、製本されて届いた契約書が同じものであるかは、絶対に確認しましょう。意図してか、うっかりかに関わらず、製本されたものが最終版でない場合があります。最終的に残るのは押印をした紙の契約書なので必ず確認しましょう。
ここまで済んで初めて取引が開始できますが、契約書の締結に思ったより時間がかかってしまい (特に争点の調整に時間がかかったりします)、リリースに間に合わないということがしばしばあるので注意が必要です。特にお互いの弁護士主張のバトルになって泥沼化することも少なくないです。
取引が行われたら、契約書に書かれた条件に基づき、毎月の請求や支払が行われます。特に問題なければ期日どおりの請求・支払が行われますが、こんなご時世ですので支払いが遅れる会社が出てきたりして、滞留債権として問題になるケースもあります。営業取引はお金を回収できるまでが重要ですので、こういったアラートが上がったら速やかに取引見直しの対処をしましょう。
契約には必ず期間というものがありますが、いつからいつまでの契約なのかは常に把握している必要があります。気が付いたら1年自動更新されていた……などということがないように。また、契約変更・中止する場合には必ず「何ヶ月前or何日前に申し出ること」ということが記載されていますので、その告知期間のチェックも重要になります。
また最後に、営業取引で頻出する用語について、いくつか私なりに説明したいと思います。
●契約期間
契約書には必ず、契約期間と、更新の条件を盛り込みます。契約期間はその名の通りですが、トライアル期間を設けて、「初回3ヶ月契約、以後1年ごとに更新」のような形にすることもあります。また、更新の条件については、「自動更新か否か?」「条件変更する場合は事前通知期間はどれくらいか?」ということを盛り込みます。
●支払サイト
支払サイトとは、取引代金の締め日から支払日までの日数のことを言います。「○日締め、○日払い」といった書き方をしますが、その内容でOKかは、社内の経理部門に必ず確認をした方がよいと思われます。
●与信管理
与信とは、そもそも取引する相手が信用できる相手なのか?を判断することになります。信用調査会社が提供する、各企業の評点というのがあって、そのランクによって信用度が計れるものになります。有名な信用調査データとしては、帝国データバンクや東京商工リサーチなどがあります。
●覚書
契約書本体には個別の金額などを直接記載せずに別紙という形で覚書に記載したり、契約を締結したあとに修正事項が発生した場合などは、覚書を後追いで結ぶことがあります。「じゃあ、その件は別途覚書を結びましょう」などと、とても便利な感じで頻出するワードです。
●証票 (請求書など)
注文書・検収書・売上報告書・請求書など商取引において様々なものがあります。会社によって必須となるものや、省略できるものが違いますので、事前に確認しておくべきでしょう。
●ビジネス条件・経済条件
要はお金に関する条件の話です。慣例として一通り提案内容を説明した後に「さて肝心のビジネス条件についてですが……」と最後におもむろにお金の話を切り出すことが多いです。
●締め日
「○日までに請求書を送ってもらえないと月内に処理できませんよ」なんてことを言われて社内を走り回った経験ありませんか? 特に大手企業の場合はそうですが、 25日までに請求書の原本が無いとだめですとか、会社によって事情が違いますので、しっかりと事前に確認しておく必要があります。
●売上計上・費用計上
いつ売上として計上できるのか? 費用として乗っかってくるのか?これを認識していないとエライことになります。これは受託でもそうですが、検収書の日付がいつになるのか? は予算を持っている人にとっては死活問題とも言うべき確認事項です。
●エクスクルーシブ (競合排除)
案件によっては契約の条件として、独占契約を条件とする場合があったりします。契約書には競合指定したサービスとの併用は不可と明記されたりしますが、一般的には「エクスクルーシブな契約」などと呼ばれます。
●レベニューシェア (料率)
ビジネス条件の代表的なワードですが、サービス収入をどのような割合でシェアするか? というのを示すものです。
●マージン (営業手数料)
商品によっても違いますが、代表的なもので広告の代理店マージンが挙げられます。広告の場合、広告主への販売料金を「グロス金額」と言い、そこから代理店マージンを除いたものを「ネット金額」といいます。例えば「媒体様へのレベニューシェアはグロスから代理店マージンを除いた金額の40%になります」のように使います。
●バーター
もともとは物々交換の意味のようですが、契約交渉の中でも頻繁に出てくる用語です。一方の条件を飲むために、一方の条件を要求する時に使いますが、あんまり良い印象の用語では無いかもしれないです。
●ビジネスジャッジ
これこそ万能な言葉ですが、結局のところ、会社としてのリスクをどこで取るかというのを、最後はビジネス上で判断せざるを得ません。契約内容をいくら弁護士が強気に出たとしても、双方折り合いがつかない場合には、最終的に会社としてどういうジャッジをするかという点に尽きます。その場合には、「この争点についてはビジネスジャッジとして丸飲みします」というような表現をします。
いかがでしたか?この他にもビジネス上で慣例となっている、もっと「ゆるい大人語」みたいなものもあると思いますので、またいつかご紹介したいと思います。
私の経歴は、受託開発のディレクター → 自社媒体のディレクター → 事業責任者 という流れを経ておりまして、以前「受託開発事業から自社媒体事業へシフトするための意識改革のポイントとは?」という記事を書きましたが、実はキャリアパスの中で一番焦ったのが営業面での知識不足でした。
受託開発を担当している時は、開発工数と人月単価さえおさえておけば渉外対応はある程度事足りていたのですが、自社メディアの場合だと提携内容の検討と営業的な話は一体となって進むことが多く、必然的に営業的知識が必要になってきました。
今回は、営業職の経験が無いディレクターの方でも、ビジネス上で最低限これだけは知っておいたほうが良いと思う、営業面での知識について紹介します。
まずは、一般的な取引成立までの流れをまとめてみましょう。以前、弊社の「ビジネススキル勉強会」というブログに「取引行為についての勉強会」を社内でやりましたと書きましたが、今回はもう少し、ディレクターの立場から見ての流れに沿って説明してみます。
それでは順に説明していきます。
(1) 打合せ
何はともあれ、まず大枠の取り組みに関しての打合せです。この段階では、いきなり細かい情報の話をするのは避けましょう。技術情報や数値情報など、会社として外部に公開していない情報のやり取りをするのは、NDA(秘密保持契約)を結んでからにしましょう。
(2) NDA締結
ということで、具体的な情報開示をするために取り急ぎNDAの締結を行います。「NDAの雛形はどうしましょうか?」と聞かれることが多いですが、通常は大きな会社の方にあわせた方がいいと思います。これは大企業ほど契約稟議の調整に時間がかかるため、あらかじめ用意された雛形のほうが早いからです。
(3) 情報開示
NDAが締結できたら (または並行して)、必要な情報を相互に開示します。
(4) 条件交渉
提携の具体的内容・ビジネススキームを交渉し、大枠合意が取れたら契約書の作成に取りかかります。後にも述べますが、このあたりで相手方の会社の与信をかけ取引きを問題なくできるかどうかの確認を行います。
(5) 契約書雛形作成
通常は提案した側が契約書の雛形を作成します。既に提携実績のあるサービスの場合、雛形は作られていることがほとんどですので、それをたたき台として詰めていきます。
(6) 法務確認
法的な確認の前に、担当ディレクターとしてざっと見ておかしい部分は先に先方と調整を済ませておく方がよいでしょう。その後、法務部や担当弁護士に契約書雛形の確認を回しますが、基本的にはすべて履歴付きのWordファイルでやり取りすることが多いと思います。
(7) 争点の交渉
弁護士等から大抵いくつかの修正点が入ります。弁護士の基本スタンスは会社の不利益にならないように防御するということが主ですので、ガチガチに防御する文言が赤入れされて戻ってくることでしょう。そこから、相手方との駆け引きになりますが、最終的には会社間の力関係で落としどころを見つけることになります。
(8) 契約締結
無事争点がクリアできたら、最終版のファイルにて契約書の製本・押印にうつります。こちらも雛形を作った方が2 部製本して、押印→一部ずつ保管という流れが通例です。ここで、一点大変重要なことなのですが、最終版のWordファイルと、製本されて届いた契約書が同じものであるかは、絶対に確認しましょう。意図してか、うっかりかに関わらず、製本されたものが最終版でない場合があります。最終的に残るのは押印をした紙の契約書なので必ず確認しましょう。
(9) 取引開始
ここまで済んで初めて取引が開始できますが、契約書の締結に思ったより時間がかかってしまい (特に争点の調整に時間がかかったりします)、リリースに間に合わないということがしばしばあるので注意が必要です。特にお互いの弁護士主張のバトルになって泥沼化することも少なくないです。
(10) 請求/支払
取引が行われたら、契約書に書かれた条件に基づき、毎月の請求や支払が行われます。特に問題なければ期日どおりの請求・支払が行われますが、こんなご時世ですので支払いが遅れる会社が出てきたりして、滞留債権として問題になるケースもあります。営業取引はお金を回収できるまでが重要ですので、こういったアラートが上がったら速やかに取引見直しの対処をしましょう。
(11) 契約更新
契約には必ず期間というものがありますが、いつからいつまでの契約なのかは常に把握している必要があります。気が付いたら1年自動更新されていた……などということがないように。また、契約変更・中止する場合には必ず「何ヶ月前or何日前に申し出ること」ということが記載されていますので、その告知期間のチェックも重要になります。
また最後に、営業取引で頻出する用語について、いくつか私なりに説明したいと思います。
営業取引における頻出ワード
●契約期間
契約書には必ず、契約期間と、更新の条件を盛り込みます。契約期間はその名の通りですが、トライアル期間を設けて、「初回3ヶ月契約、以後1年ごとに更新」のような形にすることもあります。また、更新の条件については、「自動更新か否か?」「条件変更する場合は事前通知期間はどれくらいか?」ということを盛り込みます。
●支払サイト
支払サイトとは、取引代金の締め日から支払日までの日数のことを言います。「○日締め、○日払い」といった書き方をしますが、その内容でOKかは、社内の経理部門に必ず確認をした方がよいと思われます。
●与信管理
与信とは、そもそも取引する相手が信用できる相手なのか?を判断することになります。信用調査会社が提供する、各企業の評点というのがあって、そのランクによって信用度が計れるものになります。有名な信用調査データとしては、帝国データバンクや東京商工リサーチなどがあります。
●覚書
契約書本体には個別の金額などを直接記載せずに別紙という形で覚書に記載したり、契約を締結したあとに修正事項が発生した場合などは、覚書を後追いで結ぶことがあります。「じゃあ、その件は別途覚書を結びましょう」などと、とても便利な感じで頻出するワードです。
●証票 (請求書など)
注文書・検収書・売上報告書・請求書など商取引において様々なものがあります。会社によって必須となるものや、省略できるものが違いますので、事前に確認しておくべきでしょう。
●ビジネス条件・経済条件
要はお金に関する条件の話です。慣例として一通り提案内容を説明した後に「さて肝心のビジネス条件についてですが……」と最後におもむろにお金の話を切り出すことが多いです。
●締め日
「○日までに請求書を送ってもらえないと月内に処理できませんよ」なんてことを言われて社内を走り回った経験ありませんか? 特に大手企業の場合はそうですが、 25日までに請求書の原本が無いとだめですとか、会社によって事情が違いますので、しっかりと事前に確認しておく必要があります。
●売上計上・費用計上
いつ売上として計上できるのか? 費用として乗っかってくるのか?これを認識していないとエライことになります。これは受託でもそうですが、検収書の日付がいつになるのか? は予算を持っている人にとっては死活問題とも言うべき確認事項です。
●エクスクルーシブ (競合排除)
案件によっては契約の条件として、独占契約を条件とする場合があったりします。契約書には競合指定したサービスとの併用は不可と明記されたりしますが、一般的には「エクスクルーシブな契約」などと呼ばれます。
●レベニューシェア (料率)
ビジネス条件の代表的なワードですが、サービス収入をどのような割合でシェアするか? というのを示すものです。
●マージン (営業手数料)
商品によっても違いますが、代表的なもので広告の代理店マージンが挙げられます。広告の場合、広告主への販売料金を「グロス金額」と言い、そこから代理店マージンを除いたものを「ネット金額」といいます。例えば「媒体様へのレベニューシェアはグロスから代理店マージンを除いた金額の40%になります」のように使います。
●バーター
もともとは物々交換の意味のようですが、契約交渉の中でも頻繁に出てくる用語です。一方の条件を飲むために、一方の条件を要求する時に使いますが、あんまり良い印象の用語では無いかもしれないです。
●ビジネスジャッジ
これこそ万能な言葉ですが、結局のところ、会社としてのリスクをどこで取るかというのを、最後はビジネス上で判断せざるを得ません。契約内容をいくら弁護士が強気に出たとしても、双方折り合いがつかない場合には、最終的に会社としてどういうジャッジをするかという点に尽きます。その場合には、「この争点についてはビジネスジャッジとして丸飲みします」というような表現をします。
いかがでしたか?この他にもビジネス上で慣例となっている、もっと「ゆるい大人語」みたいなものもあると思いますので、またいつかご紹介したいと思います。
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