モバイルの新規事業担当になった渡邉雄介です。最近は社内や外部でプレゼンさせていただく機会が増え、色々と学びました。
自分がプレゼンする立場になったとき、"うまく説明しなければならない" という漠然としたプレッシャーから、プレゼン自体をネガティブに捉えてしまうことはないでしょうか。今回は、プレゼンを通すために欠かせない、最も重要な4点についてお話しします。
その1: スライドに全てを書かないこと
プロジェクターから映し出されるスライドに書いてある文章を、そのまま読みながらプレゼンする人がいますが、私はそういうプレゼンを見ると心の中でこう突っ込みを入れてしまいます。「いちいち読んでくれなくても、そう書いてある!」
スライドはあなたの言葉を視覚的にサポートするものであって、カンペではありません。言うべき言葉でスライドの余白を埋めて、"ちゃんと調べた感" を出そうとするよりも、本当に伝えたいメッセージだけを抽出してください。それが見つからなかったり、スライドに書いておかないと忘れてしまうようであれば、そもそも重要ではなかったと判断して、削った方がよいかもしれません。
プレゼンテーションのデザインと伝え方についての第一人者であるガー・レイノルズは、この "朗読" プレゼンの弊害について、著書の『プレゼンテーション Zen』で次のように語っています。
情報が口頭と書面で同時に提示された場合、聴衆は情報を処理するのが難しくなるという説は、研究結果によって裏付けされている。ならば、黙ったまま聴衆にスライドを読ませておいた方がいいのかもしれない。しかし、ここで新たな問題が出てくる。あなたは何のためにそこにいるのか?
下記は、実際にあるプレゼンで使用した、中学生の携帯保有率を示すスライドです。プレゼンの約1週間前、最初にKeynoteで書いたときは、このように作りました。
<Before>
また、口頭では下記のように話す予定でした。
ケータイ白書によると、最近の中学生の80%は13歳までに携帯電話を保有しているそうです。今後もどんどん低年齢化が進み、生徒が携帯で日常的にコミュニケーションする時代が始まるでしょう。
このスライドの問題点は、大きく2つあります。
- ノイズ (雑音) が混ざっている
- 話に広がりがない
まず、あまり関係のない大学生と高校生のグラフも掲載されています。このスライドで言いたいことは、一番下の中学生のグラフだけです。
次に、口頭で伝える言葉と、スライドに書かれている文章がほとんど一緒であり、話に広がりがありません。前述の通り、この調子で数ページも続くと、聞き手は退屈し始めるでしょう。
これらの問題に対応し、プレゼン当日に使用したスライドは下記です。簡潔なメッセージだけを残し、必要なグラフは赤枠で囲むのではなく、他のグラフを消して論点を明確にしました。
<After>
また、口頭でも疑問形から始めてみたり、体験談を入れて肉付けしたり、結論 (小中学生が携帯で日常的にコミュニケーションする時代...) はスライドではなく、直接口頭で訴えるようにしました。
最近の中学生は、どの程度携帯電話を持っていると思いますか?
10年前、私が中学生だった頃は周りに携帯を持っている人はひとりもいませんでした。ケータイ白書によると、現在の中学生の80%は13歳までに携帯電話を保有しているという調査結果があります。
今後もどんどん低年齢化は進み、小中学生が携帯で日常的にコミュニケーションする時代がまもなく始まるでしょう。
それでは、子どもたちに携帯を持たせている親の意識はどうでしょうか?(次のスライドへ)
一見、Beforeの方がきれいに作れている気がするかもしれませんが、スライド上で必要以上に多くを語れば語るほど、口頭での言葉の重みはなくなります。
聞き手はスライドの情報量に共感するわけではありません。大切なのは "あなた自身の声" で語られているかどうかです。
その2: プレゼン全体を30秒で要約できるようにすること
物事の本質を明確にするために、"エレベーターテスト" と呼ばれるコミュニケーションの手法があります。
もし、大切なプレゼンの時間に聞き手が急用で外出しなければならなくなったとき、オフィスからエレベーターに乗って外に出るまでのほんの数分間で、プレゼンの内容を伝えることができるでしょうか?
著名なプレゼンテーターであるブライアン・トレーシーは、著書の『話し方入門』の中で、プレゼンの時間が30分なら準備に6〜8時間、半日だったら3・4時間、1日あったら今すぐにでも (準備なしで) 始められるというエピソードを語っています。
情熱を持って進めている計画であれば、言いたいことは日が暮れるまであるはずです。しかし、多かれ少なかれプレゼンの時間は限られていますし、エレベーターテストの例は極端だとしても、前の議題が押していて予定時間の半分程度しかプレゼンできないというトラブルは十分に考えられます。
プレゼンの準備をしていて、何が言いたいのがよくわからなくなってきたら、エレベーターテストで徹底的に削ぎ落としてみてください。
その3: 事前に聞き手と話すこと
プレゼンで共感を得るための最良の方法は、当日出席予定の何人かとプレゼンの内容について話し (リハーサルし)、事前に意見を貰っておくことです。
なお、これを根回し・ルール違反だと考えてあえてやらない人もいますが (別に賄賂を渡せと言っているわけではありません)、聞き手はできることならプレゼンの内容を受け入れたいと思っています。最初から落とすために出席する人はいないのです。そのため、事前に意見を聞きたいという申し出を、"忙しい" という理由以外で断る人はあまりいません。
これを行うと、プレゼン全体の流れをより客観的に確かめられるだけでなく、今まで気付かなかった欠点や不備、ツッコミどころが必ずと言っていいほど見えてきます。
そして、その人の意見を可能な限り反映しておくことができれば、当日に想定外の質問であたふたすることも少なくなり、自信を持ってプレゼンに望むことができるはずです。
その4: 承認の粒度はこちらから提示すること
計画の全てが受け入れられるに越したことはありませんが、人は本能的にリスクを避ける傾向があります。いくら情熱を持って進めている計画でも、規模が大きくなるほど失敗の可能性も高くなり、リスク (失敗したときに取らなければならない責任) を考えるとなかなかGOサインは出せないものです。
「会議」という言葉を辞書で引くと、"関係者が集まって相談をし、物事を決定する" とありますが、何かを決めるということは、同時に何かを落とす (選択する) という意味もあります。あなたはプレゼンで成功するための道筋を示しますが、それは同時に失敗したときのリスクも暗示しているということです。
このように、計画の全てを受け入れてもらうことが難しそうな場合、最初から無理に認めさせようとするのではなく、計画を何段階か (フェーズ) に分けた上で、"次の一手の結果を見て判断する" というジャッジに持ち込めないかも検討してみてください。
仮に、計画全体の成功確率が20%だったとしても、各段階に分けて考えれば、それぞれ70%前後の確率にすることはできるはずです。
このように段階的な承認フローをこちらから提示することで、最終的に通る可能性は高くなると思います。
まとめ: うまく話せたかどうかは重要ではない
仕事が好きのか、仕事をしている自分が好きなのか――社会人になりたての頃、当時勤めていた会社の社長にこう言われたことがあります。
これは、なかなか他人から指摘されることもないし、まして自覚するのも非常に難しい問題ではあると思うのですが、"その考え自体" ではなく、"そう考える自分" が好きなうちは、どんなにうまく説明できても、聞き手から共感は得られない気がします。
自分を大きく見せようとすると、しばしば余計な話が入ります。聞き手の共感を得て、プレゼンを通すために本当に必要な話なのかどうか……煮詰まるとよく自問自答したりします。
この他にもプレゼンで役立つ技を上げるとキリがないのですが、今回は個人的に最も重要だと考えている4点を上げてみました。
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